むやみに信じてはいけない医者やテレビの健康番組

2016年03月28日

医者の言うことに科学的裏付けは無い?

医者の言うことの半分は科学的には裏付けされていないというと、ちょっと心配になってくるだろう。
しかし、それは事実であり、いま当然のように行われている医者のいろいろな行為は、半分は経験論で行われていて、統計学的には裏付けがないのだ。
ある意味、今の医学はそんなところなのだ。
 
昔は予防接種のあとは、お風呂に入ってはいけないと言っていたのが、今では入ってもかまわないということになっている。しかし、そこには統計的なデータの裏付けがあるわけではなく、やはり経験論で言っているにすぎない。
医学的な統計でもっとも信頼度が高い、数万人を対象に数年間追いかけるような大規模な調査が行われているものはまだまだ少ない。
 
例えば高血圧症を治療すれば、長生きできるのかという信頼度の高いデータは日本には存在しない。高血圧症を治療すれば、脳卒中や心筋梗塞が減るのはわかっているが、長生きという視点では結論は出ていない。
というのも死ぬまで調査を続けていくことは、実に統計学的には難しく、費用もかかってしまうのでなかなかできないのが実際のところである。ましてや日常の診療の細かなことは、お金をかけて調査をする企業も研究機関もないというわけだ。
 

食べ物による病気予防の効果、がん健診における生存率への影響は?

しかし、薬であればその効果を見るのは調査はしやすいが、食べ物になってくると精度の高い調査はほぼ不可能に近い。
つまりにんじんを食べると長生きするという研究調査をするなら、数万の人を集め、にんじんだけ食べる人、にんじんは食べない人の二群を死ぬまで追いかけないといけない。となると、ほぼ不可能であることがわかる。にもかかわらず、テレビ番組では、この病気の予防にはこの食べ物というものが多い。
 
ビタミン欠乏症のような場合であれば、ひとつの食品で病気が治るかもしれないが、脳卒中や心筋梗塞などの動脈硬化が関係して複合のリスクがからんでいる病気では、これを食べれば防げるということにはならないはずだ。
しかし、メディアは言い切る医者を好むので、この病気にはこの食べ物がいいと、かなり信頼度の低い、経験論のようなことを言い切る医者は多い。その方が受けがいいのだ。
 
がん検診でがんが早期発見されるとメリットがあると思うかもしれないが、最近のアメリカの論文では、がん検診で総死亡率は下がらないということが報告されている。
つまりがん検診によってがんを早期発見できても、それが長期的には生存率を上げることにはならないのだ。
逆に言えば医学とはまだまだその程度のことしかわかっていないということである。
医者がやっていることが常に絶対的なことでもないし、時代と共に真実も変わっていく、それが医学の本当の姿なのだ。
風邪で医者にかかって薬を飲むと早く治るような気がするが、風邪薬が風邪に直接効くわけではないので、薬が風邪を治しているのではなく、あくまでもからだの持つ治癒力によって風邪が治っていくのだ。
 
病気になれば医者に行くという当たり前の習慣や、健康診断を受けることで健康が維持できるという思い込みも、見直していく必要があるかもしれない。
医者に行くことで、目先の痛みや予防は可能かもしれないが、長期的な生存確率を上げるという視点でみると、真実はだれにも見えない。それが現代の医学なのだ。

 作家・医学博士 米山公啓 執筆者紹介

 作家・医学博士 米山公啓

1952年山梨県生まれ。作家・医学博士。専門は神経内科。1998年に聖マリアンナ医科大学内科助教授を退職。現在は週4日、東京都あきる野市にある米山医院で診療を続けるかわたら、実用書や医学ミステリーなどの執筆から、講演、テレビ・ラジオ出演など、幅広い活動を行っている。著作は280冊を超える。主な著作には「もの忘れを90%防ぐ法」(三笠書房)「脳が若返る30の方法」(中経出版)「健康という病」(集英社新書)など。趣味は客船で世界中の海をクルーズすること。

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