いまさら聞けない「特定技能制度」とは?──人手不足に悩む経営者のための入門ガイド
2026年09月10日
「求人を出しても応募がゼロ」 「せっかく採用しても半年で辞めてしまう」 「このままでは受注を断らざるを得ない」
こうした声を、ここ数年で本当によく聞くようになりました。そんななか、取引先や同業他社から「うちは特定技能で外国人を雇い始めた」と聞いて、気になっている経営者の方も多いのではないでしょうか。
とはいえ、いまさら「特定技能って何ですか?」とは聞きづらい。この記事は、そんな方のために、制度の全体像をゼロから、実務の目線で整理したものです。
1.特定技能とは、ひとことで言うと
人手不足が深刻な業界に限って、外国人を「戦力」として正面から雇えるようにした在留資格です。2019年4月にスタートしました。
ポイントは「正面から」というところにあります。日本はそれまで、いわゆる単純労働の分野で外国人を受け入れることを原則として認めていませんでした。留学生のアルバイトや技能実習生といった、別の目的の制度を実質的な労働力として使ってきたのが実態です。
特定技能は、その建前をやめて「人手不足を埋めるために働いてもらう」と正直に定めた、初めての在留資格です。ここが従来の制度との決定的な違いです。
2.なぜ、いま経営者が知っておくべきなのか
数字を見ると、この制度がもはや「一部の企業の話」ではないことがわかります。
• 特定技能で日本に在留する外国人は、2025年末時点で40万人を突破し、過去最高を更新
• 政府は今後5年間で、特定技能1号だけで約80万人の受け入れを見込んでいる
• 対象業種は制度開始時の14分野から、19分野にまで拡大
つまり、すでに数十万人規模の労働市場が動いており、しかも国はそれをさらに倍増させようとしています。
そしてもうひとつ、見落とされがちな事実があります。枠は無限ではないということです。この点は後ほど詳しく触れます。
3.「1号」と「2号」の違いを押さえる
特定技能には2つの区分があります。まずはこの違いだけ理解すれば十分です。
| 特定技能1号 | 特定技能2号 | |
| 在留できる期間 | 通算5年まで | 上限なし(更新を続ければ永続可能) |
| 家族の帯同 | 原則不可 | 配偶者・子の帯同が可能 |
| 求められる技能 | 一定の知識・経験 | 熟練した技能(現場を仕切れるレベル) |
| 企業側の支援義務 | あり | なし |
| 対象分野 | 19分野 | 一部の分野のみ |
多くの企業がまず関わるのは1号です。「5年間、フルタイムで働ける人材」と考えてください。
一方で2号は、在留期間に上限がなく、家族を呼び寄せることもできます。実質的に日本に定着していけるルートであり、近年この2号へ移行する人が急増しています。
経営者にとっての意味は明快です。優秀な人材を5年で失わずに済む道があるということ。5年で必ずいなくなる制度と、条件次第で幹部候補にまで育てられる制度とでは、教育投資の考え方がまったく変わってきます。
4.自社は対象になるのか──19分野
現在、特定技能1号の対象は次の19分野です。
当初からの12分野 介護/ビルクリーニング/工業製品製造業/建設/造船・舶用工業/自動車整備/航空/宿泊/農業/漁業/飲食料品製造業/外食業
2024年に追加された4分野 自動車運送業/鉄道/林業/木材産業
2026年1月に追加された3分野 リネンサプライ/物流倉庫/資源循環
ただし、新しい3分野については試験の整備などが必要なため、実際の受け入れ開始は2027年頃の見込みです。いますぐ採用できるのは既存の16分野になります。
自社の事業がどの分野に当たるかは、業種名ではなく「実際にやっている業務内容」で判断されます。線引きが微妙なケースも多いので、ここは早い段階で専門家に確認したほうが確実です。
5.どうやって採用するのか
特定技能の外国人になるルートは、大きく2つです。
① 試験ルート 分野ごとの技能評価試験と、日本語試験(国際交流基金日本語基礎テスト、または日本語能力試験N4以上)に合格する。海外にいる人材も、日本にいる留学生なども、このルートを通ります。
② 移行ルート 技能実習2号を良好に修了した人は、試験が免除されます。すでに日本での実務経験と生活経験があるため、即戦力度が高いのが特徴です。
採用の窓口としては、人材紹介会社、登録支援機関、または自社で直接、といった選択肢があります。
6.受け入れる企業が負う「義務」
ここが、経営者として最も注意すべきパートです。特定技能は「雇って終わり」ではありません。
報酬は日本人と同等以上
法律上の要件です。「安い労働力」という発想で臨むと、そもそも許可が下りません。
10項目の「義務的支援」
1号の外国人に対しては、受け入れ企業が支援計画を作成し、実行する義務があります。主な内容は次のようなものです。
• 入国前の生活・労働条件の事前ガイダンス
• 空港への出迎え・見送り
• 住居の確保、銀行口座や携帯電話の契約支援
• 生活オリエンテーション(ゴミ出し、交通ルール、医療機関など)
• 日本語学習の機会の提供
• 相談・苦情への対応(母国語で)
• 日本人との交流促進
• 非自発的離職時の転職支援
• 定期的な面談と行政機関への報告
正直に言って、これを自社だけで回すのは相当な負担です。そのため多くの企業が、登録支援機関という国に登録された事業者に委託しています。全部委託すれば、支援体制の基準を満たしたとみなされるというメリットもあります。
もちろん委託には費用がかかります。給与に加えて、支援委託費、試験・渡航関連費、住居の初期費用などが発生する点は、事業計画に織り込んでおく必要があります。費用感は分野や地域、支援機関によって差が大きいので、複数社から見積もりを取ることをおすすめします。
7.よくある3つの誤解
誤解①「技能実習と同じでしょう?」
まったく違います。技能実習は建前上「国際貢献・技術移転」が目的の制度で、原則として転職ができません。特定技能は最初から労働力確保が目的で、同じ分野内であれば転職が可能です。
誤解②「一度雇えば5年間は辞めない」
上記のとおり、転職できます。待遇や職場環境が悪ければ、当然ながら人は出ていきます。「囲い込める制度」ではなく、選ばれ続ける必要がある制度だと理解してください。
誤解③「いつでも好きなだけ採用できる」
これが一番危険な誤解です。次章で説明します。
8.【重要】枠には上限がある──外食業の実例
特定技能には、分野ごとに「受入れ見込数」という事実上の上限が設定されています。そして上限に達する見込みになると、新規の受け入れは止まります。
実際に起きました。2026年4月13日以降、外食業分野では特定技能1号の新規受け入れが原則停止されています。在留者数が上限の5万人に達する見込みとなったためで、それ以降に受理された申請は不交付・不許可となっています。解除の時期は未定です。
つまり、「そのうち検討しよう」と先送りしているうちに、自社の業種の扉が閉まる可能性がある、ということです。制度を使うかどうかは別として、自社の分野が現在どういう状況にあるかだけは、いま確認しておく価値があります。
9.2027年、制度はもう一段変わる
もうひとつ、中期的に押さえておきたい動きがあります。
技能実習制度が廃止され、「育成就労制度」が2027年4月に施行される予定です。これは、一定期間の育成を経て特定技能へ移行することを前提に設計された新しい仕組みで、転職の制限も従来より緩和されます。
政府が示した受け入れ見込数は、特定技能と育成就労を合わせて5年間で約123万人。国として、外国人材の受け入れを本格的なインフラとして位置づけたことがわかる数字です。
言い換えれば、これから数年は「外国人を雇うかどうか」ではなく、**「どう雇い、どう定着させるか」**が競争の分かれ目になっていきます。
10.検討を始めるなら、この順番で
最後に、明日から動ける手順を示します。
1. 自社の業務が19分野のどれに当たるか確認する(業種名ではなく業務内容で判断)
2. その分野の受け入れ状況・残枠を調べる(外食業のように停止しているケースがある)
3. 社内の受け入れ体制を検討する(支援を自社で行うか、登録支援機関に委託するか)
4. 費用と人員計画を試算する(給与+支援費+初期費用)
5. 登録支援機関や行政書士など、複数社から話を聞く(費用も対応品質も差が大きい)
おわりに
特定技能は、「安い労働力を確保する制度」ではありません。日本人と同等以上の待遇を用意し、生活面まで支え、選ばれ続ける職場をつくることが求められる制度です。
負担は決して軽くない。それでも、5年、あるいはそれ以上にわたって共に働く人材を確保できるという意味は、人手不足に直面する事業にとって非常に大きいはずです。
そして繰り返しになりますが、枠は無限ではありません。まずは自社が対象になるのかどうか、そこから確認してみてください。
※本記事は2026年8月時点の情報にもとづいています。制度の運用は頻繁に見直されるため、実際の検討にあたっては出入国在留管理庁および各分野の所管省庁の最新情報をご確認ください。